第七文学

 冷房のない五月の午後。講堂に響く声は天井に触れ、ひとの汗の湿度を加えて榛央の耳に返った。風のない講堂に吹き溜まった体温は壁だった。そこを抜けようと思うものはわずか数人にも満たず、壁そのもの、そこでもがくことがいつしか目的となっていた。榛央は剣道部の竹刀の交わる音とコーラス部のクワイアとが響き合うなか、足を怪我し、ひとり個人練習メニューをこなす親友、剣道部エースの瑞樹圭吾にスマホを向けた。

 地区大会の、もう予選にすら出ないだろう級友の練習を動画に収めながら、榛央は呟いた。

「実録・天才剣道少年の軌跡」

 天才と言われた男は視線を上げる。

「どうするのその動画?

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