Post - たぶちの感想備忘録 (@kitsunekirin)

たぶちの感想備忘録

@kitsunekirin

諸々感想置き場

19 Posts

  1. 児童文学『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー作、池田香代子訳(岩波少年文庫)

    児童文学に入るものを幼い頃にあまり通ってこなかったので、この作品も初読です。読んでよかった! 素晴らしかった。わんぱくなマッツとちびで臆病なウーリが仲良しで、その関係が全然『守ってやる!』でも『兄貴!』みたいなやつでもないのがいいなあと思いました。親に会いたくて会いたくて、親も子どもに会いたくて会いたくて、という家族もいれば、生みの親に捨てられて、「ある日、親がひょっこりあらわれて、むかえに来たよ、なんて言うところを想像することがよくあるんだけどね、そうすると、ひとりでここにいられるっていいなあって、あらためて気がつくんだ」(p.221) なんて子もい
  2. 小説『ハイファに戻って/太陽の男たち』ガッサーン・カナファーニー=著,黒田寿郎・奴田原睦明=訳(河出書房新社)

    「素晴らしかった」という言葉を発したくなる。それを必死に押し留めている。そのような言葉で飾るべきではない気がする。七編から成る短編集。 著者のガッサーン・カナファーニー、河出書房新社の紹介ページを引用すると下記の人物。 1936年パレスチナ生まれ。12歳のときデイルヤーシン村虐殺事件が起こり難民となる。パレスチナ解放運動で重要な役割を果たすかたわら、小説、戯曲を執筆。72年、自動車に仕掛けられた爆弾により暗殺される。 図書館で借りていて、予約者を控えているのを知っているから急いで返却したけれど、読み返したい。これは買おうと思ってる。短編のすべてがすごいので
  3. 書籍『ガザに地下鉄が走る日』岡真理(みすず書房)

    マストドンのTLで知って、図書館で借りて読んだ。私はイスラエルによるパレスチナへの虐殺についてほんの表面上でしか知らないし、この本を読んでも決して「知った」ことにはならないと思う。それでも、「監獄」とはどういうことなのか、それが一体人間に何をもたらすのか、ということは否が応でも肌に感じざるを得ない。「ノーマン」という単語が多く出てくる。ノーマン。これが今も起こっている。今までも起こってきた。そして「許容」されてきた。無関係だなんて言えない。 前頁を通して「説明する」という形ではなく、岡氏による「体験の語り」がベースになっていると感じた。だからこそややも
  4. 『灯台守の話』ジャネット・ウィンターソン 岸本佐知子 訳

    訳者の岸本佐知子に引き寄せられて借りた。とはいえ岸本佐知子訳の本は見落とすのが難しいほど棚にたくさんあるので、その中から薄そうな本を……という感じで選んだ。 大人のための『星の王子様』、『はてしない物語』を読んでいるような(両者とも大人のためのものではあるのだけど)気持ちになりながらすっと読了。シルバーの物語とダークの物語と、いきつ戻りつ、混ざりつつ、なんだか波に揺られているような。 訳者あとがきに「〈物語ること〉で人は救われる――これは作者ウィンターソンがこれまでも繰り返し発してきたメッセージだ」とある。同じく訳者あとがきにウィンターソンの言葉紹介と
  5. 『突然ノックの音が』エトガル・ケレット 母袋夏生 訳

    図書館で棚をぶらぶら見て、タイトルが気になってひょいと借りた。それが9月28日。10月7日にハマスがイスラエルを攻撃した。『突然ノックの音が』、イスラエルの作家エトガル・ケレットによる超短編集である。総じてちょっと不思議なものばかり。金魚が喋ったり。 女性の葬儀に検視医も参列した。彼ばかりかエルサレム市長とイスラエル公安大臣も参列した。お偉方二人は女性の夫に、この残虐な死に報復する、と故人と夫の名を親しげに連呼して誓った。二人は、テロリストを送り込んだグループを(自爆テロ犯に報復することは事実上不可能ゆえ)見つけ次第報復する、とドラマチックかつ技巧的に語
  6. 小説『82年生まれ、キム・ジヨン』著/チョ・ナムジュ、訳/斎藤真理子(筑摩書房)

    当初予約いっぱいで図書館で借りられなくて、そうこうしているうちに2023年になってしまった。初読です。これが日本で出版されたのが2018年の末か……。韓国での出版は2016年秋。同じ年には江南駅通り魔事件。解説に書かれているけれど、執筆していた2015年にはMERSの流行が香港を旅行した「「無節操な女性たち」が」韓国に持ち込んだものだというデマ」がネットに溢れたという。 現実に今、普通に起こっていることを、淡々と記した物語。そのフラットさが『これは全然特別な出来事ではないんですよ』の証のようで、読んでいてひたすら苦しい。ただ、この苦しさが『苦しみ』とし
  7. 小説『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』 ジュノ・ディアス/著 、都甲幸治/訳 、久保尚美/訳(新潮社)

    『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』、ようやく読み終わった。凄まじかった……。紹介文が「心優しいオタク青年オスカーの最大の悩みは、女の子にまったくモテないこと。どうやら彼の恋の行く手を阻んでいるのは、かつて祖父や母を苦しめたのと同じ、ドミニカの呪いらしい――」とあって、これはもう全くもって間違ってないんだけど、こういう話かと思って読んでいくと第2部でガツンとやられます。いやほんと全然間違ってないんだけど。 「マンガ・アニメ・SF・ファンタジーなどの知識が大量に投入」といういわゆる「オタク文化」がこれでもかと編み込まれており、また大量のスペイン語が入り混じっ
  8. アニメ『水星の魔女』

     そういえばアニメ『水星の魔女』を完走した。キャラクターデザインが多様なのがよい(地球の「現地」に暮らすひとたちの肌の色が偏っているように見えてそこは気になった)。結構前に途中まで見て、会社設立のあたりまで行ったところでやめてしまったんだよね。一話から思ってたけど、子どもに大人と同等の責任と行動と戦略を持たせてみせることを「子どもの自由と自立」みたいに描いてるな~~~~~ってのがすんごいジト目になってしまって……。あの「決闘」のシステム、あれが大人公認っていうか大人が作り出したものなんでしょやばくね??? それを批判しないまま最後まで行っちゃった、という
  9.  『院内カフェ』中島たい子(朝日新聞出版)読了。すらすら読めたんだけど、これを素直に「面白い」と言うことを躊躇してる。根底にあるように見える、「自然なもの」に対する手放しの肯定のようなもの……。ちょっと他の作品も読んでみないと何とも言えないな。 介護をめぐるくだりに関してはあまりにリアルでつらいほどだった。ここから、という明確な線があるわけではなく、気が付いたらその構造に組み込まれている感じ。家族による介護が政府からよきものとして推奨されているけれど、家族、と言ったって実際に介護に携わる人間は「家族全員」なんかではなくてただ一人だったりする。そこにはもち
  10. 今日は『院内カフェ』(中島たい子)を読み始めた。新宿の「和味りん」というお魚の食事のお店で、ごはんが出てくるまで読んだ。塩焼きを食べようと思ってたのに、はもと野菜の天丼があってそちらにしてしまった。はもがふあっふあでおいしい。てんぷらは普通。油物をたべるとき、お漬物がありがたい。
  11. 映画『君たちはどう生きるか』

     新宿バルト9、シアター8、J-19。反戦映画だ、と思いました。資本主義……ではないのか、利己的な欲望、欲望のための欲望、権力構造、悪意、のようなものへの抵抗と、無駄に思えたとしてもその抵抗をして欲しいというメッセージかなと。 もっと宮崎駿の回顧録っぽい感じだと思ってたんだけど、あんまりわかんなかったな。「今までの踏襲」から、違うことをやろうとしているのではと感じた。まず主人公が「いけ好かない」タイプ。わかりやすく拗ねるんでもないし、暴れるんでもない。文句があるのがバレバレなくせに口には出さない。自分を痛めつけてまで「匂わせ」的な罪の捏造もする。今までの
  12. 『犬が星見た―ロシア旅行―』武田百合子(中公文庫)

     武田百合子の『犬が星見た―ロシア旅行―』を再読したんだけども~~~~~すごいわ。日記文学というんだろうか。そういうのって 『いしいしんじのごはん日記』 しか自分が触れたものの中で今思い出せないな。ロシア旅行記なんだけども、書き手の百合子の物事の見方、向き合い方、表現の仕方、とにかくすごい。技巧がすごいわけじゃなく、いや表現力もすごいんだけど、それよりもはっとした生っぽさにあふれていて。観察力もすごい。観察するところもすごい。そういうのが全部「書いてやろう」ではなくて、「書き留める」に徹した結果なんだろうなという自然体の趣がある。 ダンスに誘われたら「私のこ
  13. 映画『怪物』

     いろんな意味で話題作であるこの作品、公開からずいぶん経った頃に行ってもなおかなり席が埋まっていた。実は二回観に行った。一回観て、感想がまとまらないままに「面白い。でもなんとなく気に食わない」だけが残り、記憶が薄れちゃったからだ。 初回の感想としては「いじめの描写えぐいな」と「銀河鉄道の夜」。これは二回観た今も変わらない。あと「ラストの美しさが気に食わない」これもあんま変わってない。私は最初二人が死んだと思ったのだけど、死んだことよりもあの美しさが唐突すぎてびっくりした。おかげでラストの記憶が曖昧になってしまった。まあこれは私の記憶力の問題ではあるんだけ
  14. 『ひとり日和』『踊る星座』青山七恵

     新規開拓が苦手なのでついつい慣れ親しんだ作家の棚に行ってしまう。面白いかつまらないか、合うか合わないか、わからないものに手を伸ばすのに体力がいる年齢になってしまった。けど、そういうのに甘んじたくないな、と思って、とりあえず「あ」のラックからぶらぶら見て行って気になるタイトルを手に取ったのが青山七恵。初めて読む作家の本は、できたら二冊トライしたいなという考えがある。同じ作者でも作品によって合う合わないはあるので、なんというか、予備だ。偶然手に取った一冊目がつまらなかったとしても、他の十冊はめちゃくちゃ面白いかもしれない。そういう「もしも」を考えて、二冊。
  15. 映画(実写)『リトル・マーメイド』

    肌の色・髪の色でもって「アリエルじゃない」と苦情を言っていたひとびとがいる、というか今もいる、その事実を避けては通れないよなと思う。当然(というのも苦々しい話だけど)レイシズム全開のひともいるだろうけど、無邪気に「私が好きだった、小さい頃からの思い入れのある、“あの” アリエルじゃないことを許せない “だけ”」というひともいるだろう。漫画をよく読む身としては、ファンダムにおける「メディアミックスしたときのふるまい」を思い出してはウッとなったりもする。 自分の思い入れの強さで作品への愛を表現するかれらは、その愛が現実の誰かを驚くほど痛めつけていることに気
  16. 小説『野球の国のアリス』/北村薫

    私は北村薫が好きだ。「もし自分の父親がこの本の著者だったとしたらすごく嫌だなあ」と心底思うけれど、本当に心から思うけれど、北村薫が好きだ。最初に読んだのは『空飛ぶ馬』で、なんというかまあ、すごく「きれいな」ものを信じているのだな、と思いながら、うん、正直に言えば若干冷め気味に読み進め、ていたのに最後の一編「空飛ぶ馬」のマドレーヌのシーンでやられてしまった。うう、好きだ……。 北村薫はとにかく文章がうつくしい。流麗というのではなくて、むしろ結構平易であるしかなりとっつきやすい。たとえば、 生きて行くというのは、恥を重ねて行くことである。 思いついた次のこと
  17. 小説『屋上で会いましょう』チョン・セラン/すんみ訳

    ウェディングドレス、ってどう思います? 私は結婚に興味がないけれど、ウェディングドレスにはほんのちょっと憧れがある。今でも。ウェディングドレスへの憧憬を結婚への憧憬といっしょくたにしてしまったせいでテレビ出演(おおげさ)したこともあります。この話はまたどこかで。 結婚・離婚・ハラスメント・突然死—— 現代の女性たちが抱えるさまざまな問題や、社会に広がる不条理を、希望と連帯、やさしさとおかしさを織り交ぜて、色とりどりに描く9作品を収録。 韓国文学を代表する人気作家チョン・セラン、初めての短編集。 『屋上で会いましょう』チョン・セラン著、すんみ訳(亜紀書房)
  18. 映画『aftersun/アフターサン』

    ※この映画は、自死をほのめかす内容が含まれています。 新宿ピカデリーにて鑑賞してきました。シアター8,座席はH-14。なかなかの良席です。公開が5月の末だったので、いつ終わってしまうかとはらはらしていましたが、間に合ってよかった。これは書くのを迷いましたが、私はタイトルの『アフターサン』の「サン」を、「息子」だとずっと思っていて……。映画が始まってすぐ「なんか間違ってたな」と悟りました。「日焼け跡のケア、またそれに使うアイテム」のような意味だそうです。観終わった後意味を調べて、瞬間、この映画のタイトルが『アフターサン』だという事実が波のように寄せてきた
  19. 映画『ぼくたちの哲学教室』

    東京の渋谷・ ユーロスペース にて鑑賞してきました。スクリーン2、席はG-14。頭まで寄りかかれないタイプの椅子なので多少疲れますが、位置としてはとても良かった。渋谷という町、というか、渋谷駅周辺は本当にダンジョンのようだといつも思います。広い車道が蜘蛛の巣状に伸びていて、デン! とそびえたつビル群が行く手も視界も遮っていく。駅の反対方向に行きたいだけなのにどうしてこんなに時間がかかるのか。地図を見ても道の渡り方がわからない。行先につく前に帰りたさがゲージを突破してしまいます。怖いよお渋谷。 渋谷への思いはこれくらいにしておいて、映画『ぼくたちの哲学教室』

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